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災害などによる通行止や運転見合わせ。旅行先の状況を適切に確認する為の2つのポイント

旅行計画を立てていた地域に、台風や大雪または地震などの自然災害が発生し、旅行を中止しなくてはならない場合があります。旅行は「安全」であると言うことが大前提ですので、ご自身が安全だと判断出来なければ出かけるべきではありません。そこで重要になるのが「情報」です。旅行先の状況はもちろん、交通機関や経由地の道路状況なども含めて総合的に安全を確認する必要があります。今回は旅行先の安全を確認する為の方法をまとめてみました。

関連記事:ホテル旅館のキャンセル料の仕組み。台風や大雪の場合はどうなるのか?

確認するべき2つのポイント

台風や大雨、大雪など気象に関わるものは、事前に天気予報やウェザーニュースで確認する事が出来ます。これは旅行計画の有り無しに関わらず、皆さんが日常的に行なっている行動だと思いますが、旅行を計画されている方は該当日前後の天気を週間天気予報を見ながらより念入りにチェックされるはずです。そして、旅行日に「台風が直撃する」「寒波によって大雪が予想されている」となった場合には情報確認をしっかり行い旅行へ行くかどうかを判断しなければなりません。また、台風や大雪・地震の2~3日後に旅行に行く場合でも、どのような状況になったのか情報確認をしておくことをおすすめします。

では、具体的にどのように確認するのが良いか見てみましょう。

「目的地」の状況を確認する方法

現地の状況は「現地」に問合せするのが一番です。具体的には、ホテルや旅館などの宿泊施設に問い合わせるのが良いでしょう。お宿の公式ホームページをチェックするのも良いですが、電話をかけて確認するのが一番確実です。お宿は自らの状況は当然把握していますが、そこで働くスタッフの方が周辺地域から通われていますので、お宿を中心としてある程度広範囲の生活圏の状況を確認出来ているはずです。ですので、宿泊が伴う旅行を予定されている場合、現地の状況はお宿に電話で確認するのが確実です。また、メールでの問い合わせは控えましょう。大型のホテル旅館であればメール対応の選任者がいますが、多くの宿泊施設では様々な業務を兼務していますのでメール返信には時間を要するケースが多く、タイムリーな情報が得られない可能性があるからです。

事前に、NHKの地域災害情報ページで旅行を計画している地域の情報を確認しておくこともおすすめです。

NHK各地域災害情報はこちら
NHK NEWS WEBはこちら

また、問い合わせの際に一番重要なのは「安全の判断をするのはお宿ではない」ということを理解しておくことです。お宿に確認するべきは「周辺の状況」であり、「安全の判断」ではありません。お宿から状況を確認し、後述するその他の情報と合わせて自ら安全を判断していきましょう。

「交通機関」「経由地」の状況を確認する方法

目的地が点であれば、道路や各種交通機関は線です。目的地に問題が無くても、経路で災害が発生していては目的地に向かうことが出来ません。災害状況は目的地だけでなく、経路や交通機関の運行状況もセットで確認しておく必要があります。

ここで重要なのが「問い合わせ先」です。これは非常に良くあるケースですが、交通機関の運行状況や道路状況を宿泊予定のホテルや旅館に問い合わせされる方が多くいらっしゃいます。しかし、宿泊施設はそれぞれのお客様が「どこから」「どんな交通手段」でお越しになられるのか把握していません。しかも、その様々な交通経路の状況をタイムリー且つ正確に確認する術がない為、はっきりした答えを得ることは出来ないのです。先にもお伝えしましたが、お宿は近隣の情報は把握出来ますが、それぞれお客様が住まわれている所からお宿までの道路状況や公共交通機関の情報をすべて把握することなど出来る訳がないのです。

宿泊施設には、最寄のインターチェンジや最寄駅までなど、リアルに確認がとれているであろう正確な状況を確認し、そこまでの経路については自ら調べるのが良いでしょう。親切なお宿であれば、電話先でインターネットで調べて知りえる情報を教えてくれる場合もあるかも知れませんが、お宿も情報をインターネットやメディアで調べる以外に方法がありませんので、わざわざ電話をして調べてもらうくらいであれば、自ら調べた方が電話代もかからず早く正確な情報を確認することが出来るはずです。

道路・公共交通機関の情報確認先一覧

旅行先に向かうには、一般道に高速道路、電車や航空機などさまざまな手段がありますが、日本国内の道路や公共交通機関の運航状況を確認出来るページへのリンクをまとめましたのでご使用ください。

公共交通機関は主に目的地周辺まで向かう「一次交通」の確認先となっていますが、私鉄や路線バスなど目的地に近い「二次交通」については、宿泊先が状況を把握している可能性も高いですので、電話で問い合わせてみるのも良いでしょう。また、お宿が状況を把握出来ていない場合は、地元の交通機関運営会社名(○○交通など)を確認して、社名検索を行ない直接確認しましょう。

日本道路交通情報センター

JATIC 災害時情報提供サービス

NEXCO(ネクスコ)

NEXCO東日本

新着情報はこちら
ドライブトラフィックはこちら

NEXCO中日本

中日本ハイウェイ交通情報 はこちら

NEXCO西日本

リアルタイム交通情報 はこちら

JRグループ

JR北海道

JR北海道:列車運行情報

JR東日本

JR東日本:運行情報・運休情報・遅延証明書

JR東海

JR東海:東海道・山陽新幹線運行状況
JR東海:在来線運行状況

JR西日本

JR西日本:列車運行状況

JR四国

JR四国:列車運行情報

JR九州

JR九州:運行情報

航空会社

日本航空グループ

JAL:運航状況のご案内
ジェイエア:時刻表
日本エアコミューター:運航状況のご案内
日本トランスオーシャン航空:運航状況のご案内
北海道エアシステム:運航状況
琉球エアーコミューター:お問い合わせ

ANAホールディングス

ANA:国内線・国際線の運航状況や発着案内
エアージャパン:運賃・時刻表・予約・お問合せ
ANAウイングス

エアアジア・ジャパン

エアアジア・ジャパン:運行状況検索

ジェットスター・ジャパン

ジェットスター・ジャパン:大幅な遅延・欠航時の対応について

春秋航空日本

春秋航空日本:飛行機運航状況,航空機の飛行状況のリアルタイム検索

スターフライヤー

スターフライヤー:運航状況のご案内

ピーチ・アビエーション

ピーチ・アビエーション:運航状況のご案内

バニラ・エア

バニラ・エア:運航状況

アイベックスエアラインズ

アイベックスエアラインズ:運航情報

天草エアライン

天草エアライン:運航状況

エア・ドゥ

エア・ドゥ:発着案内/運航の見通し

オリエンタルエアブリッジ

オリエンタルエアブリッジ:お問い合わせ

スカイマーク

スカイマーク:発着案内・運航状況

ソラシドエア

ソラシドエア:運航状況・運航の見通し

フジドリームエアラインズ

フジドリームエアラインズ:運航情報

新中央航空

新中央航空:運航状況

新日本航空

新日本航空:お問い合わせ

東邦航空

東邦航空:運航状況

まとめ

まずは何より、旅行は安全が第一です。昔、学校の先生に「家に帰るまでが遠足です。」と言われたものですが、旅行も同じく、安全に家に帰るまでが旅行なのです。何ヶ月も前から予定を立てて楽しみにしていた旅行が、地震や台風などの自然災害で行けなくなってしまうのは大変寂しく残念なことです。しかし、安全が確認出来ないのに無理をして旅行に行くのは絶対に控えた方が良いです。逆に、しっかりと情報収集をして安全確認をせずに「なんとなく危なそうだから」と決めつけて、旅行を止めてしまうのも非常にもったいないと思います。

「目的地」と「交通機関・経由地」、この情報を適切な方法で確認して、安全で楽しい旅行へお出かけください。

関連記事:ホテル旅館のキャンセル料の仕組み。台風や大雪の場合はどうなるのか?

ホテル旅館のキャンセル料の仕組み。緊急事態宣言発令、台風や大雪などの場合はどうなるのか?

ホテルや旅館のキャンセル料については、その存在は知っていても良く分からない方も多いかと思います。巨大台風などの異常気象や不慮の事故、または親族に不幸があった、最近では新型コロナウィルスによる緊急事態宣言の発令など、不可抗力によるキャンセルでもキャンセル料は発生するのでしょうか?今回はホテル旅館のキャンセル料の仕組みから、もしキャンセルせざるをえなくなった場合の対応方法まで、順を追ってお教えします。

参考記事:キャンセル後の再予約は「モッピー」を使ってお得度アップ

ホテル旅館のキャンセル料とは

まずは宿泊施設のキャンセル料について理解しましょう。少し難しい話になりますが、そもそも「宿泊予約」とは宿泊施設と利用客の間で結ばれる「契約」であり、その内容は宿泊施設毎に定められた「宿泊約款」に記されています。宿泊予約とは、対価を支払って特定の日に宿泊することができる権利を得る行為であって、利用客は宿泊施設に対しその契約を申し込み、 宿泊施設がこの申し込みを承諾することで契約成立となります。この契約は、直接電話で申し込んでも宿泊予約サイトで予約しても同じく適用されます。(旅行会社で予約した場合は、利用客は旅行会社と旅行業契約を結びます。)

キャンセル料はその宿泊約款に記された「宿泊客の責任-違約金」として必ず記載がありますので、利用客は宿泊予約をした時点でキャンセル料を支払う義務が発生することになります。またキャンセル料やキャンセルポリシーは、同じ宿泊施設の予約であっても、楽天トラベルやじゃらんnetなどの宿泊予約サイトによって異なっている場合もありますし、プラン毎に異なっているケースまでありますので必ず事前に確認しておくことをおすすめします。

宿泊約款:違約金記載例
楽天トラベル:キャンセルポリシー記載例

キャンセル料は何の為にあるのか?

では、ホテル旅館は何故キャンセル料を設けているのでしょうか。次はその理由について考えて見ましょう。宿泊約款の内容はホテル旅館によって様々ですが、宿泊施設がキャンセル料を定めている理由は、大きく分けて2つあります。

  1. 販売機会の損失に対する補償
  2. すでに発生した原価の補償

利用客が宿泊予約をした時点で、ホテル旅館はそのお客様が宿泊する客室をおさえます。そして、利用日までその客室の販売を止める形となりますので、仮にその他の方から該当客室を利用したいと申し出があっても予約を受ける事が出来ずお断りすることになります。キャンセル料とは「その予約が無ければ販売する事が可能だった」という前提に基づき、その補償として設定されているのです。その為、利用日に近くなればなるほど、販売機会の損失期間が長かった事になりますし、再販出来る可能性も減少してしまう為、キャンセル料は高くなるのです。

次は原価の補償になります。宿泊施設はその予約内容に応じて事前準備を進めていますので、キャンセルが発生した時点ですでに仕入れが発生している物も当然存在します。その補償としてもキャンセル料は使用されます。食事が伴う予約の場合、特に鮮魚や生鮮食品など保存が効かないものを扱っている場合は、その食材を破棄せざるをえない為、補償目的としてキャンセル料が設定されています。ですので、1泊2食付が主体の温泉旅館の方が、ビジネスホテルなどと比較するとキャンセルポリシーが厳しくなっているケースが多いのです。

現在のキャンセル事情

昨今はインターネット予約の増加に伴い、キャンセル数も増加しています。以前はキャンセルを行なう時は電話などで直接宿に連絡をして「人」にその旨を伝えなければなりませんでした。しかし、インターネットではクリックだけで簡単にキャンセルが出来てしまいますし、罪悪感も少ない為、キャンセルが増えているのです。予約が簡単になった分、キャンセルも簡単になっているのです。

キャンセルの理由は「予定が変更になってしまった」「都合が悪くなってしまった」など人それぞれですが、悪質なキャンセルが増えているのも現実です。同じ日に複数のホテル旅館を予約したり、同一の旅館に複数日予約を入れたり、自身の都合だけで宿泊施設や周りの方の迷惑を考えない人も増えています。しかも、そういった方に限ってキャンセルポリーを細かくチェックし、キャンセル料が発生するギリギリのタイミングで一気にキャンセルをされるのです。契約上は全く問題ないのですが倫理観が疑われます。

また、外国人旅行客の増加に伴いキャンセルも増えています。ホテル旅館側の一般的な認識では「外国人はキャンセルにルーズで、どうせキャンセル料を請求されないと思っているから平気でキャンセルする」という考えが主流ですが、私はそうは思いません。私は予約サイトのUI(ユーザーインターフェイス)や操作性に問題があると考えています。楽天トラベルやじゃらんnetなど日本の宿泊予約サイトはとても親切な作りになっていますが、海外の宿泊予約サイトはとても分かり難い作りになっていると感じています。中には予約が成立しているかどうかも分からないような物も少なくありません。つまり、予約をしたと本人が気づかずノーショー(無連絡キャンセル)となっているケースも少なくないと考えています。

様々な理由により、ホテル旅館でのキャンセル件数は増加しているのです。

【仮予約はNG】絶対にやってはいけないホテル旅館の予約方法を徹底解説

キャンセル料は払わなければいけないのか?

正解はYESです。先にもご説明した通り宿泊予約は契約なのです。契約している以上、どんな理由であったとしてもキャンセル料の支払い義務があります。仮に支払いを拒否したとしても、ホテル旅館側が訴訟を起こせば民事訴訟となり法廷で争う形となります。また、実際に裁判が行なわれた場合でも、支払わないということ自体が契約の不履行にあたりますので、ホテル旅館側が極めて有利になります。

しかし、長年宿泊業界にいる私でもキャンセル料の支払いで訴訟を起こしたと言う話は聞いたことがありませんし、裁判にはかなりの手間がかかりますので、数万円程度の金額に対して訴訟を起こすという事は賢明な判断ではないのかも知れません。

だからと言ってキャンセル料を踏み倒して良いというわけではありませんし、人としての在り方が問われます。また、悲しい現実ではありますが、そういった心無い方が増加している為、事前カード決済を必須にしたり前受け金(デポジット)を求めるホテル旅館も増えてきています。先の通り、さまざまな要因からキャンセル数も増加傾向ですので、ホテル旅館は売上や利益を確保する為にキャンセルポリーを厳しくすると同時に、予約時点で回収を確実なものにする為の動きを強めているのです。一部の心無い方の為に、宿泊予約も簡単に出来ない不便な世の中になりつつあるのです。

新型コロナウィルスの拡大、台風や大雪などの自然災害、親族の不幸など、不可抗力でのキャンセルは免責されるケースもある

キャンセルの理由はさまざまですが、お客様の責任ではどうにもならない事態でキャンセルをせざるをえないケースも多く存在します。では、その場合キャンセル料はどうなるのでしょうか。

基本的な考え方としては、宿泊予約は契約ですのでキャンセル料の支払い義務は存在します。しかし、日本のホテル旅館では決してその限りではなく、柔軟な対応をされる宿泊施設も少なくありません。仮にインターネットから予約をしていたとしても、直接電話をして内容を説明することでキャンセル料をいただかないと言ってくれるホテル旅館も多いのです。事実、私の経営する温泉旅館でも悪質なキャンセル以外は、キャンセル料はいただいていません。自身の旅館に宿泊されることを楽しみにしてくれていた方が、本人がどうしようも無い理由でキャンセルしなければならなくなったのです。残念な思いをされている方に「キャンセル料をいただきます」とは、なかなか言えません。また先の通り心無い方が増えている現代ですので、きちんと誠意を持ってお電話いただけることを逆に喜びだと感じますので「またご機会があったらご利用をご検討ください」とお伝えさせていただいています。そういった方の多くが後日「あの時キャンセルしてご迷惑をおかけしました」と改めて宿泊していただいています。

契約も大切ですが、もっと大切なのは利用客と宿泊施設の信頼関係なのです。キャンセル料が発生するタイミングでキャンセルをしなければならなくなった場合は、素直に誠意をもってその理由を電話でお伝えすることをおすすめします。必ずそうとは限りませんが「キャンセル料は結構です」と言っていただけるケースも少なくないはずです。

「事前決済」「オンラインカード決済」をしていた場合のキャンセル料はどうなるのか?

宿泊予約サイトで予約時にカード決済をした場合についてお伝えします。楽天トラベルやじゃらんnetでは、予約時にクレジットカードで支払いを済ませてしまうことが可能です。その場合、宿泊代はすでに支払っていますのでキャンセルになった場合は「キャンセル料を差し引いた金額」が返金されます。

これは厳密に言うと、利用客が使用したカード会社の締め日によって2つのケースがあり、1つは先の通り、キャンセル料を差し引いた金額が返金になる場合。もう1つは、クレジットカードの締め日前にキャンセルをした場合で、この場合はキャンセル料がそのまま引き落とされます。

ここで重要なポイントが1つあります。それは、上記の何れの場合もホテル旅館側がキャンセル料の支払いを免除することが出来るという事です。楽天トラベルでもじゃらんnetでも同様で、宿泊施設は管理画面から「キャンセル料を0円にする」ことがシステム上可能なのです。つまり、インターネットでそのままキャンセルをすると、キャンセルポリシーに準じたキャンセル料が自動で発生しますが、直接宿にキャンセル連絡をすることで、キャンセル料はその限りではないと言うことです。

【楽天トラベル】キャンセル料はいつから発生するの?仕組みも徹底解説
【じゃらんnet】キャンセル料はいつから発生するの?仕組みも徹底解説

まとめ

  • 宿泊予約をした時点でキャンセル料の支払い義務が発生する
  • キャンセル料は宿泊施設への補償
  • キャンセル料は必ず支払うべき
  • 不可抗力でのキャンセルは免責されるケースもある

今回はホテル旅館のキャンセル料とは何なのかをご説明しましたが、どんな時代になったとしても一番大切であり守るべきは契約ではなく「利用客と宿泊施設の信頼関係」だと私は考えてますし、同様の考えをもった業界関係者も沢山いらっしゃいます。キャンセルをしなくてはならなくなった場合、まずはお宿に直接連絡を入れて正直にその理由をお伝えすることを強くおすすめします。また、台風などキャンセルになってしまう可能性が事前に分かるような場合は、その段階でお宿に相談をしてみるのも良いでしょう。

近年はキャンセル料の請求が怖くて予約が出来ないという方も多いと聞いたこともありますが、もしそのような事態が起ったとしても誠意をもった対応をすれば、お宿から無下にされることは少ないのではないでしょうか。また、そういうお客様が増えることで柔軟な対応をしてくれるホテル旅館も増えてくるでしょう。

参考記事:キャンセル後の再予約は「モッピー」を使ってお得度アップ

【旅館のマナー】予約時に言ってはいけない3つの言葉

ホテル旅館で満足度の高い宿泊をする為には「目的にあった宿選び」をする事が何よりも大切である事は、このブログでも何度も紹介させていただきました。しかし、せっかく目的に合った宿を選んだにも関わらず、予約の際にある3つの言葉を言ってしまった為に、満足度を急落させてしまうケースがあります。しかも、旅館に勤めていると高頻度でこの言葉に出会うことがあります。

結論から申し上げれば、その3つの言葉はホテル旅館のスタッフがとても嫌がる言葉で、モチベーションが著しく下がる言葉なのです。皆さんも言っていないか是非チェックしてみてください。

「直接の予約だから値引き出来ないの?」

これは宿泊施設の予約に関する内容を少しだけ知っている方が良く使う言葉です。ホテルや旅館は、旅行会社や宿泊予約サイトから予約をもらうと、送客手数料やシステム利用料などという形で、予約金額に応じたリベートを支払いします。旅行会社経由の場合は15%、宿泊予約サイトの場合は10%がリベートの相場です。

「直接の予約だから値引き出来ないの?」と言う言葉は、この仕組みを知っている方が、お宿に直接電話予約をする場合や、公式サイトから予約をされた時に使われます。「自分は内情を知っているんだぞ」と言う上から目線の交渉術なのかと思われますが、その発言をしたからと言って割引がされることはほとんどありませんし、とても恥ずかしい行為ですのでしない方が良いでしょう。

物販での卸業者と同じように、一定のボリュームで送客を行なってもらえるからこそ、同一価格で販売しても手数料をお支払いしているのです。リベートは販売代行・営業代行に対しての対価であり、宿泊施設は直接販売行なうことでかかる内部経費とのバランスを計算して最終的な販売価格を設定しているのです。つまり、お宿のスタッフから見れば「直接の予約だから値引き出来ないの?」と言う言葉を使う方は、知ったかぶりの面倒くさい人でしかないのです。

また、仮にこの言葉で値引きが叶った宿泊施設があったとすれば、よほど集客に困っている(=サービスレベルが低い)か、実際に宿泊をされる際に料理の質などを下げられている可能性がありますので、逆に要注意です。

「○○旅館はしてくれたのに、あなたのところはしてくれないの?」

これを聞いたお宿の方はどう思うでしょう。正解は「だったら、○○旅館に行けばいいじゃん」です。99%の方がそう感じていますので、もはやこの発言をされた方に精一杯のサービスをする気持ちには誰もなれないのです。

この言葉も一つの交渉術なのかも知れませんが、極めて稚拙です。それぞれのお宿は個性を磨き、いかに他の施設と差別化を行なっていくか必至になっています。お宿独自の個性を磨き、その個性的なサービスをお客様の旅の目的とマッチさせることで満足度を高めようとしているのです。そうする事が、お宿もお客様も共に満足のいく旅行の実現への唯一の道だと知っているからです。他所のホテル旅館のサービスが良かったのなら、そのお宿に行けばいいだけですし、それを強要する権利は誰にもないのです。

また「同じようにしてくれたら行ってあげてもいいわよ」や「良いサービスだからあなたのホテルの為に言ってあげてるのよ」と続けてくるケースもありますが、自分勝手で恥ずかしい発言ですので控えた方が良いでしょう。

「社長(女将・支配人)と知り合いなの」

お宿の偉い人を知っているからと言う理由で、何か追加のサービスを期待する場合に使われる言葉ですが、これも逆効果です。

まず知っておかなければならないのは、関係性が深い間柄であれば、社長や女将など個人に直接連絡してくるということです。つまり、関係性が浅い人ほど、お宿に連絡をしてきてこのような発言をしているということなのです。また、また良好な関係性であればあるほど、相手の経営する宿にサービスの強要など出来ないのが普通です。私の場合は、私の知人だと言って予約をして暗にサービスを強要してきた方がいたと報告を受けたら、予約自体もお断りさせていただきますし、関係性も解消させてもらっています。

スタッフ側の目線で見るとどうでしょう。経営者や上司の知人ほど面倒なお客様はいません。必要以上に気を使わなくてはならないですし、逆に普通通りのパフォーマンスが出来なくなってしまうことも少なくありません。この言葉を使う使わないの前に、知人が経営者や管理職のお宿は選ばないという選択の方が賢明なのかも知れません。

まとめ

今回は言ってはいけない代表的な言葉について解説させていただきましたが、同様の言葉も多く存在しています。基本的にはいずれも「自分さえ良ければ」的な発想の上にある言葉だということはお分かりになられたと思います。良いサービスを期待するのであれば、サービスをしてただく相手の気持ちに立った言動をすることで、相手も気持ちよくサービスを行なうことが出来るようになり、結果的に満足度の高い宿泊をすることが出来るでしょう。

お宿選びだけではなく、すべての消費行動には人柄が色濃く表れます。もし、どんなお宿に泊まっても満足がいかないという方がいらっしゃったのなら、相手の事を考えるのではなく、自分自身と向き合ってみる必要があるのかも知れません。

【旅館の利用法】入れ墨・タトゥーと温泉入浴の微妙な関係

温泉旅館をはじめとする日本の多くの入浴施設は、入れ墨やタトゥーを入れられている方の入浴を拒否しています。しかし、昨今は外国人旅行者(FIT)の増加やファッション目的に入れ墨を入れられている方も増え、時代の流れと入浴施設の対応にギャップが生じて来ています。

そもそも論として、入浴施設は何を根拠に入れ墨を排除してきたでしょうか。今回は、その理由と今後の入れ墨と温泉入浴について考えてみたいと思います。

何故入れ墨があると入浴出来ないのか

皆さんもすでにお分かりかと思いますが、日本人の多くが「入れ墨=暴力団・ヤクザ」のように、入れ墨から反社会勢力をイメージされ、浴場で入れ墨を入れられた方に出会うと恐怖を感じてしまう事が、入浴施設が入れ墨の入った方をお断りする一番の原因です。筆者の経営する温泉旅館でも稀にお客様から「お風呂に入れ墨の入った人がいるので何とかしてください。」と言う声をいただきますが、正直にお伝えすれば、スタッフもお客様と同じく入れ墨に対して恐怖を持っていますので、その方に「ご遠慮ください」とお声がけする事が出来ない場合も少なくありません。

大きなお風呂や温泉は、のんびりゆっくり寛ぐ所ですが、入れ墨は「恐怖」という形で、それを妨げてしまう要因になってしまう為、多くの入浴施設は入れ墨を排除するような営業形態をとっているのが現実です。何故、日本人がそのようなイメージを持つようになったのかは諸説あるかと思いますが、日本人の多くが「入れ墨=反社会勢力=怖い」と言う認識を持っていることは事実です。

ここに大きな問題があります。現在はファッションや文化、宗教上の理由などにより入れ墨やタトゥーを入れられている方も多くいらっしゃいます。しかも、入れられている方の大多数は反社会勢力ではなく、一般の方であり、周囲の皆さんに恐怖を与えようと言うような意図は全く無いと言う事です。

昨今の入浴事情

近年は、多くの外国人の方が日本観光に訪れるようになり入れ墨が身近になって来ていることや、スポーツ選手や芸能人など、社会的影響力のある方がタトゥーをファッションとして入れたりしており、入れ墨への認識もだいぶ変わりつつあります。それに合わせて「入れ墨=怖い」と言うイメージも少しずつ薄まってきてはいますが、未だに否定的な印象を持たれている方のほうが大多数であることも現実です。

温泉旅館や入浴施設もその社会的全体の認識の変化は感じとっていますし、近年増加している外国人旅行客を取り込んで行く為には、規制の緩和が必要な事は十分理解しています。しかし、ぞれぞれの方がどんな目的で入れ墨を入れられているかを確認する事は難しく、また「恐怖」と言う視点で見れば、デザインや柄、色などによる視覚的な違いによっても受ける印象は異なってきます。入浴施設はそのような個々が受ける印象まで把握することも、線引きすることも出来ない為、すべてNGという体制をとらざるをえないのです。

それでも入浴した場合はどうすれば良いのか

入れ墨問題は入浴施設の対応うんぬんではなく、周りの方が受ける「印象」という極めて抽象的な部分に大きな原因がある為、「こうだ!」と言う正解を見つけ出すことが難しいのです。国も外国人旅行者の満足度向上に向けて、入浴施設に規制の緩和をするよう動いていますが、先の通り問題は入浴施設ではなく、日本人が持つ社会的イメージにありますので解決にはまだ少し時間がかかるでしょう。しかし、その国民的イメージの転換と入浴施設の対応の変化のスピードは、確実に加速してきていることも事実で、筆者の感覚では2025年~2030年には、状況はかなり変わっていると思います。

では、それまでの間、入れ墨を入れられた方が意図せず周りの方に恐怖を与えることなく、温泉を楽しむ為にはどうしらたら良いのでしょう。今回は2つの方法をご紹介します。

貸切風呂・家族風呂を利用する

現在は、一定の時間を貸し切ることが出来る「貸切風呂」や「家族風呂」などのプライベート温泉を用意している施設も多く存在します。温泉旅館はもちろんですが、日帰入浴施設でも貸切風呂を用意しているところも少なくありません。そこを使用すれば、他の方と出会うこともありませんので、入れ墨を入れていても周りに気兼ねすることなく温泉を楽しめます。プライベート空間と言う意味では、露天風呂付客室を予約するのもよいでしょう。

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入浴着やスキンカバーシートを使用する

傷や手術痕などを隠す為の「入浴着」や「スキンカバーシート」を使用するのもおすすめです。大きい範囲であれば入浴着、小さい範囲であればシートで良いでしょう。また、スキンカバーシートは問題ないかと思いますが、稀に入浴着の着用を嫌う入浴施設もありますので、入浴着を希望される場合は事前に確認しておくと良いでしょう。

まとめ

入れ墨と温泉入浴の関係は、日本人が入れ墨に持つイメージに依存しており、その問題の根深さから、現在でも過半数の入浴施設が入れ墨を入れられた方の入浴を制限しています。しかし、そのイメージも確実に変わりつつあり、今後はさらに温泉を楽しみやすい環境となってくるでしょう。

先に上げた方法も良いとは思いますが、「隠す」と言う行為を繰り返していてもこの問題の根本的な解決にはならないのです。より多くの日本人が持つ「入れ墨=怖い」と言うイメージを払拭して行く為には、入浴施設も制限を撤廃し、よりオープンな場を提供することで、日本人に入れ墨やタトゥーに慣れてもらう必要があるのではないでしょうか。実際に入れ墨やタトゥーを見ていただいて「な~んだ、全然怖くなんてないんだね。タトゥーを入れていても全然普通の人なんだな。」そんな風に思ってもらうことがとても重要なのです。

怖いと言うイメージを薄めていく姿勢こそ、国内外のより多くの方に日本が持つ天然資源である温泉を楽しんでいただく為の最短ルートなのではないかと考え、筆者の経営する温泉旅館では入れ墨やタトゥーの入浴制限は行なっていません。また、そのような入浴施設は確実に増えてきています。

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【旅館のマナー】仲居さんへの心付け(チップ)が不要な3つの理由

温泉旅館に宿泊する際に「心付け」や「チップ」を渡す必要があるか迷われる方も多いかと思います。渡さないと失礼な人だと思われてしまわないか?常識の無い人だと思われたらどうしよう?そんな風に思われる方もいらっしゃるかも知れません。でも、安心してください。結論から申し上げれば、心付けは不要です。

筆者が経営する温泉旅館は、お一人様あたりの平均宿泊単価が3万円以上ですが、心付けお持ちになるお客様は1%もいらっしゃいません。また、心付けの有無でお客様を区別したり、接客姿勢を変える事もありません。今回は、現在の温泉旅館事情と合わせて「心付け」に対する考え方を学んでいきましょう。

 

「心付け」とは

心付けとは、お世話になる方、またはお世話になった方にお渡しする謝礼の事ですが、現在では、おもてなしやサービスの対価は「宿泊代」「サービス料」として事前に提示されていますので、それ以上の謝礼を渡す必要はありません。しかし、皆さんが悩まれるのは心付けに「感謝の気持ち」と言う意味が含まれている事をご存知だからだと思います。ですが、当たり前ですが感謝の気持ちは「ありがとう」と言う言葉でも伝える事が出来ますし、先にご説明した通りサービスの対価として料金が設定されていますので、心付けを渡さないと宿側に失礼だと言うことは全く無いのです。

「働き方改革」が進む日本のお宿

温泉旅館の仲居さんに心付けを渡すと言う文化が何故生まれたのか正確な事をお伝えする事は出来ませんが、心付けの誕生には「働き方」が大きく関わっているように思います。

以前は、「仲居」と言う職業は典型的な長時間・低賃金労働でした。筆者が旅館で働き始めた十数年前でも、住み込みで朝から晩まで働いている方もおられました。また、さまざまな事情で住み込みで働らかざるをえない方も多く、宿側も「雇ってあげている」と言う感覚を持っており、とても低い賃金で働いている方も少なくありませんでした。海外ホテルのドアボーイにチップを渡すのと同じように、旅館に泊まったら低賃金で働いている仲居さんに心付けを渡すと言う形が生まれて来たのでは無いかと思います。語弊があるかも知れませんが「仲居さんは、長時間・低賃金労働なのだから」と言う社会的な共通認識の中から、お礼の気持ちとしてお金を渡すようになったと筆者は考えます。逆にそう考えなければ、その他のサービス業において心付けという文化が無いと言うことに説明が付かないように思います。

何れにしても現在では、旅館でも働き方改革が進み、仲居さんの賃金も向上し、夜働いて朝も出勤する「たすきがけ」や、拘束時間が長くなる「中抜け」のような勤務形態も少なくなってきています。また、労働基準法を遵守するのであれば、そのような働き方は法的にも出来なくなってきています。よって、感謝の気持ちとしてお金を渡す必要はもう無いのです。

個人プレーからチームプレーへ

以前は、1人の仲居さんがご到着から朝夕のお食事の用意、そしてお見送りまで、1組のお客様を1人が担当していました。その為、お客様との距離が非常に近く、1泊でそのお客様ととても親しい関係になることも多くありました。しかし、現在の多くの旅館では担当制を止め、スタッフがチームやユニット単位でお客様をおもてなしするような形態へサービスのあり方が変化してきています。

その理由は、お客様がべったりのサービスを好まなくなった事、そして宿側の理由としては、サービス品質を安定させる事が上げられます。担当制の場合、それぞれのスタッフのサービスレベルにお客様の満足度が依存してしまう為、宿全体のサービスレベルが安定しないデメリットがあります。Aさんが担当したお客様はすべて大満足なのに、Bさんが担当するとクレームだらけ。担当制を採用している旅館では、このような事が日常的に発生しており、旅館経営と言う意味では非常に大きなリスクです。Aさんが何らかの事情で退職した場合に営業がなりたたなくなってしまうからです。

心付けは担当していただいた方への感謝の気持ちですので、チームでおもてなしをしていただいた場合には渡す相手も明確ではないですし、気持ちをお金としてお渡しするほど関係性が深まらないのも現実です。

おすすめ記事:【モッピー】ポイ活で宿泊予約を圧倒的にお得にする方法。

心付けは課税される

担当制を止められているお宿の場合でも心付けをいただく場合もあります。その場合、多くの宿は会社としてそのお金を管理し、売店などで販売している商品をお土産でお渡ししたり、食事中の飲物をサービスするなどのお返しを行ないます。そして、経理的には雑収入として計上しますので、当然課税対象になり、せっかくの気持ちが半減してしまうのです。むしろマイナスになる可能性さえあります。

先にご説明したように、仲居さんが個人所得として心付けをいただくのではなく、チームで心付けをいただいた場合は分配率などの問題が生じる為、会社が一括で管理するようになり、さらに収入として計上しなければならない為、課税もされます。しかも、旅館は「いただいたからにはお返しを」考え、お土産や必要以上のサービスをしてくれます。もちろん、そんな事を求めてお渡ししているのでは無いですが、日本人ならもらったからにはお返しをしたいと考えるのが普通のように思います。現在の旅館の在り方の場合、心付けは逆にお宿に迷惑をかける形になってしまう場合もあるのです。

また、電話での予約はではなく宿泊予約サイトを使う事で、お宿との直接的なやりとりが無く予約自体がライトな印象となり、お宿側も心づけがもらえると言う意識もほぼなくなりますので、予約は宿泊予約サイトから行うのがスマートです。

まとめ:どうしても感謝の気持ちを伝えたい場合は

上記の理由より、基本的には温泉旅館では心付けは不要です。しかし、本当に良くしていただいたり、ご迷惑をおかけしてしまった場合に、何か感謝の気持ちをと考えられる方も少なくないと思います。そのような場合、筆者はこうしています。

  1. チェックアウト時に直接、感謝の気持ちを伝える
  2. 後日、手紙を添えてお菓子などを送る

この際に、溢れる感謝の気持ちを伝える為に、誰もが知っているような高級菓子を贈ると、逆にお返しが送られてきてしまいますので、適度な物を選ぶ必要があります。あなたの地元のちょっとしたお菓子、それで十分です。もっと言えば手紙だけでもあなたの気持ちは十分伝わるはずです。

また、どうしても滞在中に心付けを渡したい場合でも、お渡しする場合はチェックアウト時に「お世話になりました。」と、さっとお渡しするのが良いでしょう。到着時にお渡しすると「何かしてくれよ。」と受け止められる場合も多いですので気をつけてください。

 

 

忘れてはいけない観光商品の特性(その2)

私たちが扱う観光商品には、誘客や販売を行っていく上で絶対忘れてはいけない特性が2つあります。その1つが「想起と消費のタイムラグ」です。今回考察するもう1つの特性は、前記のタイムラグと対になる部分で、国内旅行者、インバウンドに関わらず効果的なプロモーションを行っていく上で、とても重要な特性ですので、改めてご確認してみましょう。

忘れてはいけない観光商品の特性(その1)

距離は価値、移動はコスト

観光商品の重要な特性、それは「消費地への長距離移動が発生すること。」です。物を購入する場合でも、その商品を販売している店舗へ足を運ぶ必要がありますが、通常はほとんどの商品の消費は自身の生活圏内で行われる為、購入をする為の移動距離はあまり長くはなりません。現在ではインターネットを使えば、どんなに遠くで販売されている商品も取り寄せることが出来ますので、多くの商品が自宅で購入(消費)出来るようになっています。

しかし、観光商品は「非日常」や「感動」を扱っている為、消費は自身の生活圏外で行われるかたちとなり、必然的に消費地は遠方となります。この「消費地までの距離(移動)」が観光商品を販売する上で重要なポイントになります。

例えば、自宅近くのスーパーでティッシュが300円で販売されており、20km離れた隣町のスーパーでは、全く同じティッシュが200円で売られていたとします。価格が安い隣町のスーパーへ行く方、近くのスーパーで購入する方と別れるかと思いますが、それはなぜでしょうか?全く同じ物を購入するのであれば、通常は誰でも安い方を選ぶはずです。しかし、そこに距離がある場合はどうでしょう。移動にかかる時間や交通費などと、価格の差を考え、どちらで購入するのが良いか検討されると思います。そこから分かるのは「距離は価値、移動はコスト」だということです。 隣町のスーパーの価格は、200円ではなく「200円+距離=〇〇円」。 近くのスーパーの価格は、300円ではなく「300円-距離=〇〇円」なのです。

観光商品は、その個人の主観や価値観に大きく左右される「距離」という相対的な価値に依存してしまっている事を十分意識し、この距離の壁をどう取り除くのかを戦略的に考えていかなければ来訪者の増加は見込めません。その心理的な壁(距離)を越える為には、地域の地理的な条件などにより、さまざまな案が考えられますが、共通して言えることは、距離のコストを上回る価値を提供することです。

ある有名観光地と無名観光地を比較した際に、お客様の満足度は無名観光地の方が高いのに、有名と無名に分かれてしまうのは、単純に首都圏からのアクセスの違いだけだったりすることも非常に多く見受けられます。現地までのアクセスのし易さという価値が、総合的な価値を大きく引き上げて、来訪者数や知名度にまで影響を与えているのです。逆に言えば、アクセスの悪さが価値を引き下げてしまっていると言えます。 ただ、観光地を移動することは不可能ですし、交通インフラの整備も一朝一夕に行う事は出来ませんので、その移動距離やアクセス状況も含めた価値を、観光地の基本価値として捉える事が必要です。

距離の壁を越える

地方の観光地がこの距離の壁を越える価値の与え方としては、大きく分けて下記の3つが考えられます。

  1. 独自性を強める
  2. 周囲と協力し広域での価値の創造
  3. 移動自体に価値を与える

いずれの考え方も有効ですが、今後の特に重要になってくる取り組みは2.です。 施設などが単独で個性を強めて価値を創造して行くこともとても重要ですが、他の地域にある同業態の施設との比較となってしまいがちです。しかし、さまざまな業態が連携し合い生み出した価値は多様性に富み、結果的に他とは比較の出来ない独自性を生み出すことが可能になります。

視野を広げることで、独自性と価値を創造する

近くの観光地や施設や体験イベントなどに興味をもっている観光客に「ほんの少しだけ足を伸ばせば、こんなに素晴らしい場所があるんだよ。」と言うことを伝えてあげる事も効果的です。すでに近くの観光地に興味を持ち、距離のハードルを越えてきている「来訪の見込性の高い方々」へ向けて情報を届けるのもプロモーション効果の拡大には欠かせない考え方です。マーケティング用語で言えば、関連商品をお客様に促すクロスセルです。「知っている観光地×知らなかった観光地」こんな小さな事でも、地域の新しい価値を創造することに繋がります。言い方は良くありませんが、地方にとっては近隣※の有名観光地を利用するくらいの気持ちも必要です。 観光庁も地域力の向上の為、日本版DMOの形成を呼びかけており、地域内での繋がり方が非常に重要になってきています。

※FIT(外国個人旅行者)が対象の場合は、各種交通機関を使用し1~2時間程度の移動距離は近隣と考えても良いでしょう。

忘れてはいけない観光商品の特性(その1)

忘れてはいけない観光商品の特性(その1)

商品の販売を検討する際には、顧客や市場、競合などさまざまな要素を総合的に検討しなければなりませんが、何をおいてもまずは「商品そのもの」について良く考え、認識を深めておかなければなりません。その商品がどんな特性を持っているのかを熟知していなければ、誰に売るべきなのか、どこに売るべきなのか、どう伝えたら良いのか等の販売戦略を立てることが出来ないからです。

私たちが扱う「観光」という商品にも特性があります。しかし、そこを十分に理解しないままプロモーションが行われ、効果が得られていない場合がよくありますが、戦略が無いまま行うプロモーションで結果が出ないのは当然です。各観光商品には、地域性や多様性などさまざまな特徴がありますが、すべてに共通する最も重要な忘れてはいけない特性が2つあります。今回はその1つについて考えてみたいと思います。

忘れてはいけない観光商品の特性(その2)

想起と消費のタイムラグ

想起とは「その商品を欲しいと思うタイミング」、消費とは「購入するタイミング」です。観光商品のもっとも大きな特性の一つは、想起と消費の間に非常に長いタイムラグがあるということです。これは誰もが知っているとても当たり前なことです。しかし、この特性があまり重要視されていないのもまた現実です。

「どこかに旅行に行きたいなぁ」と思った日と、実際に旅行に行く日は別です。事前予約を必要とする宿泊商品などでは、行きたいと感じたタイミングと、予約するタイミング、そして実際に宿泊する日はすべてバラバラで、いずれのタイミングにもタイムラグが生じます。このタイムラグは、販売(誘客)戦略を立てる上で極めて重要なポイントです。自地域にある観光地のパンフレットやホームページを作ってプロモーションし、その情報に触れて「あ、行ってみたいな。」と感じてもらったとしても、実際にそれを消費(来訪)する為には、一緒に行く家族や友人とのスケジュール調整、交通情報の確認や予算など、消費に至るまでに決めなければならないことも多く、即消費には至ることが出来ません。重要なのは、そのタイムラグの間にせっかく行きたいと思った感情を忘れてしまうことです。また、情報は上書きされる性質をもっていますので、現代のような日常的にさまざまな情報に触れる社会では、「行ってみたい。」という情報(感情)は、どんどん上書きをされてしまいます。

ドイツの心理学者のヘルマン・エミングハウスは、ヒトはどれだけ記憶したことが頭に残っているか、どれだけ忘れるかということを調べる、下記のような研究を行いました。

「子音・母音・子音」から成り立つ無意味な音節(rit, pek, tas, …etc)を記憶し、その再生率を調べ、この曲線を導いた。結果は以下のようになった。 20分後には、節約率が58%であった。 1時間後には、節約率が44%であった。 1日後には、節約率が26%であった。 1週間後には、節約率が23%であった。 1ヶ月後には、節約率が21%であった。 この一番上のグラフは経過時間ごとの節約率を表している。節約率とは一度記憶した内容を再び完全に記憶し直すまでに必要な時間(または回数)をどれくらい節約できたかを表す割合である。式で表すと (節約率)=(節約された時間または回数)÷(最初に要した時間または回数) (節約された時間または回数)=(最初に要した時間または回数)-(覚え直すのに要した時間または回数)

出典:ウィキペディア 忘却曲線

この研究から分かることは、ヒトは記憶した直後から物忘れを始め、最初は一気に忘れ、次第にゆっくりと忘れるようになること。そして、継続的にその情報に触れることで、記憶の忘却を抑制できるということです。 観光商品を扱う際、この消費までの時間の長さによる「忘れられる特性」を意識したプロモーションを行わなければ、せっかくお金や労力をかけて行ったプロモーションが実を結ばない可能性が非常に高くなります。逆に言えば、消費をするタイミングで情報を与えることが出来れば、来訪の可能性は高まると言えます。

特性を踏まえた具体的なプロモーション方法

  1. 特定の人物に、繰り返し継続的に情報を発信し続ける
  2. 消費するタイミングに合わせてアプローチをする
  3. 消費をするまでの間、忘れないように情報をとっておいてもらう

1.の場合は、Cookie※の保有期間を長く設定し、リターゲティング広告など接触を繰り返す方法などが考えられますが、継続的にコストがかかる為、財源の少ない地方では現実的ではありません。また、2.のように、不特定多数の個人が消費をするタイミングを極めるのも、現実的ではありません。 ※Cookie(クッキー):Webブラウザ内に蓄積される来歴情報。

その為、地方観光地のプロモーションでは、3.をどう実現するのかがプロモーション効果の最大化、そして来訪者数増加のポイントになります。

忘れてはいけない観光商品の特性(その2)

デスティネーション(目的地)の認識を深めて、誘客方法を考える。

デスティネーション(destination)は、英語で目的地、行き先です。
JRグループが自治体や地元の観光事業者等が共同で実施する「デスティネーションキャンペーン」は、日本の観光従事者であれば知らない方はいない大型観光キャンペーンで、旅行目的地を商品とした代表的な「デスティネーション・マーケティング」です。今まではこの「目的地」という考え方が、観光を考える為のベースにあり、どの地域や観光地も目的地になる事を目指して誘客活動が行われてきました。しかし、これから観光をビジネスとして考える上で、この目的地の考え方を細分化し、考察を行い、自地域や自社がどこに該当するのか、目的地に対する認識を深めていかなければならない時が来ているのではないでしょうか。

欲求型目的地

従来の標準的なデスティネーション(目的地)の考え方は、これが多いのではないでしょうか。「行きたい、行ってみたい」という欲求に起因する目的地です。 このタイプの目的地を目指す場合は、より緻密なターゲティングを行い、ターゲットの絞込みが必要になります。観光や体験、食など目的はさまざまですが、主たる目的地として選ばれる為には、「行きたい」という衝動を掻き立てる圧倒的な魅力と差別化が必要になります。

これはインバウンドについてのあるアンケート調査ですが、「フルスピード訪日中国人旅行者街頭アンケート調査結果」では、60%以上の方が旅行中に立ち寄る飲食店を決めています。また、日本の何を魅力に感じて旅行に来たか、という質問に対しては30%以上の方が「食事」と答えているのも興味深いです。食事に興味があるのに、決めるのは現地に来てからなのです。旅行中の現在地に応じてお店を選ぶ傾向があると推測されます。また旅行中に飲食店を決める際に43%が「気になってフラッと入る」21%が「看板を見て入る」と答えています。期待はしているけれど、決めるのは成り行き。 このアンケート結果から、多くの場合、飲食店は「欲求型目的地」ではないことが分かります。 自地域や自社が誘客にあたり見込み客の「行きたい!」を引き出し、寄添っているのかを熟考しなければなりません。

出典:フルスピード訪日中国人旅行者街頭アンケート調査結果

必要型目的地

ホテルや旅館などの宿泊施設を利用する訪日外国人観光客が、「どうしてもそこに泊まらなければならない!」という欲求を持って宿泊されるケースはどの位あるのでしょう。多くの場合は、何か別の目的があり、その地域に存在する宿泊先として選ばれているのではないでしょうか。

日本では、ゆっくり過ごしたり、癒しを求めて温泉旅行に行くという文化がある為、「人気の温泉宿に泊まりたい」という、欲求の受け皿として目的地になる場合もありますが、インバウンド(訪日外国人旅行者)については、その文化はありません。観光庁の「訪日外国人消費動向」によれば、「温泉」は、訪日前に最も期待していたことのうち、「日本食を食べる」「ショッピング」「自然・景勝地観光」」に次いで、4番目と高い順位ですが、それは「温泉」であり、宿泊ではありません。単純に「泊まる」と言う商品(行為)が、何百キロ、何千キロ、遠く海の向こうからやってくる主たる目的には、なかなかなり難いのではないでしょうか。しかし、居住地と目的地が離れていればいるほど、宿泊抜きにして観光は成り立ちません。 欲求を高め、満たすことは難しいですが、必要性(泊まらなければならない)が極めて高い宿泊商品は「必要型目的地」と考えるのが良いでしょう。先に挙げた飲食店も、お腹が減るので何か食べなければならないと言う意味で「必要型目的地」と言えます。

段階的目的地

目的地とは出発地がなければ存在し得ません。出発地と目的地はセットで、そこには必ず移動が発生します。そして移動があると言うことは、通過地、経由地が存在するということです。または、観光客がすでに目的地にいる場合は、そこが出発地になり自宅が目的地となります。目的地とは絶対的な存在ではなく、「現在地・今いる場所」が大前提で、そこから移動をして向かう相対的な場所のことなのです。

さまざまな移動手段が存在しますが、移動は必ず時間と共に進行する為、その段階に応じて小さな目的地が生まれ続けていきます。「トイレに行きたいから、次のサービスエリアに寄ろう。」これが段階的目的地です。「成り行き型目的地」と言ってもいいかも知れません。ただ「成り行き」と言っても、漠然とした完全偶発的な成り行きは実は少ないものです。朝6時に朝食を食べたから正午近くにお腹が減るのです。 とてもシンプルな事ですが、出発地と目的地、経路が分かれば、時間を逆算するとこで意図的に段階的目的地を作りだす事が可能になります。

まとめ

目的地は、観光客の数、そしてサービスや価値を提供する側の数だけ存在します。また、1回の旅や旅行の中で1つではありませんし、出発前に決めるものだけでもありません。自身の地域や観光地、店舗やサービスが、目的地としてどんな役割を担い、観光客のニーズやウォンツとどう適合するのかを良く考えたプロモーションが求められています。
いずれのタイプの目的地としても「知ってもらうこと」は重要ですが、「知ってもらい方」「知ってもらうタイミング」も合わせて検討しなければ、今後の誘客は難しいものになるでしょう。

地域活性化に「よそ者、若者、ばか者」はいらない!?

地方創生や地域活性化の成功法則として、良く語られる「よそ者、若者、ばか者」論。地域活性化のパイオニア的な事例においては、かなりの確率でこの法則が成り立っていましたが、昨今地方創生の動きが全国に広がっていく中、その成功法則に当てはまらないケースが続出しています。以前は地方創生の切り札のように語られる事も多かった「よそ者、若者、ばか者」ですが、現状を鑑みると、以前と今と地域活性化を実現する「人材(人財)」のあり方が変わってきているのではないでしょうか。今回は「よそ者、若者、ばか者」論から、未来の地方にとって必要となる人材について考察してみたいと思います。

「よそ者、若者、ばか者」とは。

そもそも地域活性化における「よそ者、若者、ばか者」の定義とは何でしょうか。 それは「固定概念が無い人」というのが、一番スマートなのではないでしょうか。地域活性化の初期段階、イノベーションにおいては「こういうものだ」という固定概念は大きな障壁となりますので、それが無いということ自体が非常に大きなアドバンテージになります。

脳は基本的に怠け者であり、楽をしたがるようにできている。

出典:脳が冴える15の習慣 記憶・集中・思考力を高める (築山 節 著/日本放送出版協会)

脳は怠ける為に、固定概念を形成します。目の前に現れた事象を過去のケースに当てはめ、類似性を見つけて以前の処理内容に適応させます。そうすることで出来るだけ考えることを避け、怠けるのです。怠ける為に固定概念というデータベースをどんどん構築していくのです。個人差はあるにせよ、人は経験を積むことにより「こういう場合は、こうするべき」という固定概念を形成していく生き物なのです。 元々その地域に暮している方は、その地域での生活が長く、経験が豊富が故に固定概念も多く、客観的視点で自地域を見る事が出来なくなります。それは上記のようにヒトが生物として持つ特性です。

それに対し「よそ者、若者、ばか者」に共通する特徴は、固定概念に囚われず、客観的にモノゴトを考えられると言うことでしょう。客観的にその地域を見ることにより、今迄見つけることの出来なかった問題点を見つけ、それに対しての解決策を立案し、結果的にイノベーションを起せるのです。

イノベーションを成功させるためには、『機会』を正しく見つけ出す必要がある。

出典:ドラッカー名著集5 イノベーションと企業家精神(P.F.ドラッカー/ / 上田惇生)

マネジメントの大家、P.F.ドラッカー氏もこう記しているように、客観的視点での『機会(状況、問題)』の発見がどれだけ重要であるか分かります。

「よそ者、若者、ばか者」の役割

上記に記したように「よそ者、若者、ばか者」は、地域イノベーションを起す為に必要な人財であり、その存在無しには地域活性化は出来ないのではないかとさえ思います。しかし、昨今では「よそ者、若者、ばか者」ではなく、その地域で生まれ育った方達が地域活性化に成功しているケースも非常に多く見られますが、なぜそれは実現出来たのでしょうか。

その答えは「役割」という観点で「よそ者、若者、ばか者」を考えると非常に分かりやすいです。 彼らの役割は「その地域の常識に囚われず、客観的な視点でその地域を見て、『機会』を発見すること。」なのです。先のP.F.ドラッカー氏の言う『機会』の発見、それが役割であり、イノベーションを起す事が自体が役割では無いのです。その地域で生まれ育った方達がイノベーションを起せないのではなく、『機会』を発見出来なかったから起せなかっただけなのです。しかし、地域活性化の事例が増えたことに伴い、どんな視点で自地域を見ることで問題点を発見し、新しい発想を生み出せたのかという情報が増加し、その多くの事例に自地域を当てはめて考えることで、さまざまな角度での客観的視点を得ることが可能になったのです。「よそ者、若者、ばか者」の役割は、情報(事例)で代替される時代に入ってきたのです。

これから地域に必要な人財

先の通り、視点が情報で代替できるようになった現在では、その情報を理解し活用する能力「リテラシー」が求められるようになります。しかし、それは「よそ者、若者、ばか者」と同じ様に、ある種のトレンドのような話で、その時代に合わせて活躍出来る役割が移り変わっていくいうことなのではないでしょうか。地域活性化は一過性の取組みではなく、長期に亘ってその地域に「魅力のタネ」を蒔き育てていくことであり、またその仕組作りのことです。

では、その長期に亘る地域活性化の取り組みにおいて必要な人財とは、どんな人財なのでしょうか。

最も強い者が生き残るのではなく、最も賢い者が生き延びるのでもない。 唯一生き残るのは、変化できる者である。

この言葉は、ダーウィンの進化論をマーケティング的にアレンジ(誇張)した言葉ですが、環境適応能力が種の存続に大きな影響を与えているということは事実です。これを地域に当てはめて考えてみるとどうでしょう。 変化する環境(社会状況)において、その時に力を発揮出来る人財がその地域に存在しているかどうかが重要なのではないでしょうか。継続的な地域活性化の為には、さまざまな考えや価値観を認め、受け入れ、またそれを奨励し、それぞれの能力を最大限発揮出来る環境の整備が求められているのです。

必要なのは「多様性」あり、それを認め合える環境なのです。

FIT(外国個人旅行者)の増加は、地方創生の大チャンス

激変する旅行形態の変化

インバウンドの主流が団体旅行であった頃は、多言語化したパンフレットやチラシ等を作成し、海外の旅行エージェントへ観光地案内や企画旅行を提案する等の誘客活動が行われてきました。しかし近年、インバウンドは個人旅行へ大きくシフトしてきています。つまりそれは、自地域の存在を知ってもらう相手が、旅行エージェント(特定の旅行会社)から外国人旅行者個人(不特定多数の個人)へ変わることを意味し、その旅行形態の変化は観光業のあり方を激変させるとても大きな変化です。

しかし、この変化は歓迎されるべき変化であり、上手く対応する事で、今まで外国人旅行者に見向きもされなかった地方にとっては、外国人観光客を増やす大きなきっかけとなります。その地域にどんなに魅力的な観光地や施設があったとしても、知ってもらわなければ足を運んでくれることは絶対にありません。今までは日本を紹介する雑誌に載る一部の地域や施設、旅行社が観光ルートに組み易い有名観光地にしか、その存在を知ってもらう権利が無かったかと思うほど、限られた情報源しかありませんでした。しかし、その「知ることの壁」がインターネットにより取り除かれ、各地方と外国人旅行者が繋がれるようになったのです。

外国人旅行者の個人旅行へのニーズの高まりと、インターネットという情報を得ることが出来るツールがそろったことで加速的に個人旅行は増加しています。地方の観光地にとっては外国個人旅行者(以下 FIT)を増やす、まさにビッグチャンスです。

旅行手配方法(国籍・地域別、観光・レジャー目的)

出典:観光庁「訪日外国人の消費動向 訪日外国人消費動向調査結果及び分析」 平成 29 年 4-6 月期 報告書

FITは、どうやって情報を得ているのか。

では、どんな風に世界中の皆さんに自地域の情報を伝えたら良いのでしょうか。

「海外への情報発信はインターネット」そんな漠然としたイメージはあっても、具体的な方法を見つけ情報発信に取組まれている地域は実は少ないのではないでしょうか。インターネットは時間も場所も選ばす、情報の伝達速度も速いです。また、さまざまなメディアとも拡張性も高い為、海外への情報発信はインターネットを使用するのが良いのは周知の事実です。逆に、情報を受け取る外国人の方も「Visa Global Travel Intentions Study 2015(2015年Visa世界旅行意識調査) 」では、旅行全般の情報収集について訪日観光客の91%が旅行の計画にオンラインでの情報源を活用していると回答しており、情報源をインターネット上に求めていることも分かります。

同時に「旅行計画段階におけるツール別オンライン情報の活用」では、訪日観光客は日本人海外旅行客と比べ、モバイルやタブレットの使用率も非常に高くなっています。またwebサイトだけではなく、アプリを使って情報を得ている方が多いことも注目すべきポイントです。海外旅行を検討する時、以前は旅行エージェントの店頭に足を運んで計画を立てていたのが、自宅でPCを使いインターネットで情報を集めるようになり、現在は持ち歩きが可能なスマホやタブレットを使い、旅行へ行きたいと思った瞬間に情報にアクセスしている。そして、より簡単に、より分かり易く旅行計画に必要な情報を収集出来るアプリケーションも使い、それぞれが自分らしい旅を簡単に形作ることが出来る時代に変わってきている事が見てとれます。

世界中の旅行者は、それぞれの興味のある事をインターネットで検索し、思い思いの旅を楽しむ時代へ急速に移り変わってきているのです。しかも先のデータなどから、海外では私たち日本人が考えるよりも早い速度でこの変化が進んでいると考えられます。

Q:あなたはどのツールを使用してオンライン上で情報を収集しますか?
【図1:旅行計画段階におけるツール別オンライン情報の活用】

出典:Visa Global Travel Intentions Study 2015(2015年Visa世界旅行意識調査)

FITとの繋がりで、地方観光のあり方が変わる。

情報の入手先が旅行エージェントだった時は、その担当者の嗜好や考えが旅行先決定に大きな影響を与えていました。担当者は観光情報のすべてを扱う事は当然出来ない為、必然的にもともと知っている有名観光地や営業力(資本力)のある地域など、偏った地域への送客が多くなります。そして、一度案内をしたことのある観光地であれば勝手が分かり、手間やコストも削減出来る為、また別の団体もその観光地へ送客する。その繰り返しで、一部の地域にのみ外国人観光客が溢れ返るようになりました。しかし、これからは「個人旅行」の時代です。各地域がインターネットを使って自地域の魅力を直接外国人個人へ伝える事ができ、同時に外国人も日本独自の文化や体験ができ、より日本らしさに溢れる地方部の情報を待っているのが現状です。政府も観光を通じた地方創生の取り組みを推し進め、さまざまな施策が行われている今こそ、各地域、各店舗、各観光は各々しっかりとした情報発信戦略を立てFITに地方部に足を運んでいただく取り組みを行わなければなりません。

そして、FITの増加には地方の観光地にとって、とても大きなメリットもあります。

FITの大きな特徴の一つは、リピートやフォロワーが増え易いことです。与えられた観光ルートではなく、自身で探して自力で訪れることができた場所には愛着が湧きます。その為、FITはSNSやブログなどで旅行体験を発信する率も高くなっています。自身の興味のある場所に訪れる訳ですから、より多くの人達に体験を伝えたいと思うのは当然です。地方の魅力を伝えるプレゼンターとしての役割も期待できるFITの増加は、地方観光にとって大きな追い風となります。その為、一定数のFITの訪問があった後に、自然と外国人観光客が増えたという事例もあります。しっかりとインターネット戦略や誘客計画を立て、少しでも多くのFITを呼び込めるよう努めることで、リピーターやフォロワーがじわじわと増加していく良いサイクルを生み出すことにも繋がります。

外国人旅行者の団体旅行から個人旅行へのシフトは、地方観光にとっては来訪者数を増やす大きなチャンスです。一朝一夕で地方に多くのFITが訪れる訳ではありませんが、このチャンスを逃さず、今からでも決して遅くはありませんので、観光振興に向けて自らの情報発信しっかりと発信することスタートさせることをおすすめします。